【借金の国際比較】

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前回メルマガで紹介した『新潮45』2002年9月号の「銀行をギャフンと言わせる方法」について、さっそく多くの方から感想を頂きました。 「痛快」「読んでゾクゾクした」「興奮した」「希望が湧いてきた」など大反響でした。これは私が書いた記事ではないが、知人が登場人物として出ている事もあり、またそれを抜きにしても大変痛快で元気が出る内容ですので(文章もさすが作家の方が書いただけあって素晴らしい)、是非多くの皆さんに読んでもらいたいと思う。 9月中旬までは本屋で普通に買えると思うので是非御一読ください。

さて今回は、上記の『新潮45』に書かれていた日本とアメリカの借金比較に感化されて、私も日本と海外の借金に対する比較を書いてみたいと思う。 本を読みかじって身に付けた断片的な知識にすぎないが、読者の方の意識改革にお役に立てれば幸いです。

【金利】
ドイツでは貸出金利の2−4倍を超えると公序良俗違反の対象になり、年利18%以上の金利は無効とされるという。(このためドイツには消費者金融のようなものはなく、概して非常にお金を借りにくい。) フランスでは消費者金融の年利が10%程度。 アメリカでは消費者金融やクレジットカードでも年利4%台から45%まで幅が広いが、だいたい預金金利の4倍ぐらいが小口金融の相場のようだ。

ちなみに日本では預金金利が0%に等しいので、仮に年利18%でも預金金利の何十倍もの金利で借金していることになる!(なんという金貸し天国!!)

また、超高利のヤミ金融がこれほど多くのさばっているのは日本だけ。アメリカではそんな高金利に借りるのは不合理だからさっさと諦めて自己破産するだろうし、フランスでは高利貸しのような公序良俗に反する業者がいると世間や近隣の人たちがそれを許さず追い出してしまうという。

【多重債務救済】
アメリカでは弁護士の数が100万人以上いる。(日本は弁護士が2万人もいない。) また、アメリカでは非営利組織の多重債務救済団体が多数あり、消費生活全般におよぶカウンセリングから貸金業者との減額和解交渉や返済代行までやってくれる。 アメリカ最大手の非営利組織"CCCS"は全米に4500箇所もの拠点がある。 カウンセリングから業者との交渉、はては高校の家庭科の授業に派遣されてクレジットの講義などもしている。
一方、日本では弁護士以外の消費者救済組織はまだまだ未発達で、安心して頼れるところはほんのわずかしかない。(司法書士が今後権限拡大されて期待されるが・・・) また日本では、経済的失敗を未然に防ぐためのアドバイザーはいるが(リスクマネジメントやファイナンシャルプランナー等の有資格者)、しかし、「失敗したらどう対処するか?」について明確にアドバイスできる人は非常に少ない。 しかし最近では、「失敗学」がマスメディアでもてはやされつつあるので、これは非常に良い傾向だと思う。 今後に期待したい。 (私もその一端を担いたい)

【ブラックリスト】
日本では自己破産後7年間は個人情報機関に記録が残り、多くのクレジット会社がこの期間のカード発行を拒む。つまり破産したら7年間カードが作れない。

アメリカでは自己破産者が年間140万人以上もいるが、破産直後のカード発行にも意外と寛容な場合が多い。 破産後のカード発行にあたっては、最初はデビットカードのように銀行残高の範囲内でVISAやMasterカードが使え、徐々に実績を積みながら信用枠が拡大するものが多いようだ。合理的だね。

【自己破産】
アメリカでは早めに諦めて自己破産する傾向が強い。 2万ドルぐらいの負債総額で自己破産するケースが多いとか…。アメリカの自己破産者数は年間140万人。(日本は15万人位) 単純計算すると、10年間で1400万人が自己破産していることになるから、全国民の何割かは自己破産経験者ということになる!? ドイツではアメリカや日本のように簡単に自己破産/免責はできない。 免責に至るまでの過程で、任意整理のような弁済手続きを試みる必要があるという。また免責になっても7年間は債権者に支払わねばならないという。厳しいね。

日本ではアメリカ並みに簡単に自己破産−免責ができるが、ギリギリまで頑張って多重債務がパンパンに膨れ上がってから自己破産する人が多い。 また自己破産に対する考え方も、アメリカのように「借金チャラにしてゼロからやりなおす! 踏み倒した借金はこれからガンガン稼いで社会に還元することで償う!」という前向きなものではなく、どちらかというと、「人生の落伍者」のレッテルを貼られたような、悲壮感いっぱいの気持ちでいる人が多い。

自己破産はちゃんと法律で定められた制度。裁判所が免責のお墨付きをくれたのだから、もっと堂々と生きていこうよ!

【連帯保証人】
アメリカでは連帯保証人制度などという、連帯して借金の責任を負うようなバカげた制度はない。 (昨年夏のメルマガにも書きましたね・・・) せいぜいCo-Signerという、いわば身元保証のようなもの程度しかない。 アメリカは民主主義=自己責任が徹底された社会なので、貸し手の審査能力が厳しく問われるし、貸し手が借り手を不幸にさせるようなアンフェアな契約を締結させることも許されないし、ましてや第三者に債務を無条件に連帯保証させるなんてことは道義的に考えられないのだ。

たとえば極端な例え話だが、「医者のA氏が心臓移植手術を成功させられなかったらA医師の友人のB氏にも連帯責任をとってオトシマエをつけてもらう」 なんていう誓約書があったとしたら、B氏はそれにサインするだろうか? まずしないだろう。 だってB氏にはA医師の心臓移植手術の腕前なんかわからないし、手術する患者の容態や手術の難易度もわからないのだから。 わからないものに闇雲に連帯責任を負うほどバカなものはない。 それと同じことを強要しているのが日本の金融機関であり、そんな不条理な連帯保証契約に署名捺印している愚か者が私たちなのだ。(私もそんなオロカモノの一人だった。)

【担保】
日本では、借金返済が不能になって担保を押さえられその担保の価値が下がって残債に満たなかった場合、残債が無担保債権として残って、しつこく残債を請求される。

一方アメリカその他欧米諸国では、たとえ担保価値が下がっても、差額は請求されずチャラになる。 こういうのを「ノンリコース」と呼び、グローバルスタンダードなのはこちらのほうである。 言うまでもなく、ノンリコースは貸し手のリスクが高いので、担保評価の目が厳しくなり、おのずと貸付審査が厳しくなるが、不良債権が発生しにくい。 回収不能な案件は担保を処理してそれでオシマイとなり、大変健全な会計処理となる。 これだと借り手も貸し手も大変前向きな経済活動ができる。

日本のような習慣は貸金業者にとっては良いかもしれないが、国の経済全体を考えた場合、言うまでもなくノンリコースのほうが優れているはず。新陳代謝が活発になるから。

【借金を返せないときの債務者の気持ち】

日本人の多くは借金を返せないと、まるでこの世の終わりのように失望し自分を責めてしまう。 また社会的にも、借りたものを返さない奴は罪人に等しいというような意識が根強く残っており、たとえトイチの高利貸しに被害に遭って警察に行っても、借りたものを返せない債務者側のほうが悪いと一蹴されてしまう始末だし、またたとえば、新規事業に失敗して返済不能に陥った場合、そのチャレンジ精神は評価されず、債権者からドロボー扱いされ、債権者からも家族親戚からもひどい罵倒を受ける。

一方、アメリカでは、「金を返したい、しかし返せない」という状態は、特に不道徳なことではない。「返さない」のと「返せない」のは違う。「返さない」のは社会道徳に反するだろうが、「返せない」というのは経済活動を営んでいれば誰にでも起こりうることである。 真面目に事業にチャレンジしていても失敗することもある。むしろ、返済能力を失った者から強引にむしり取る貸し手のほうが道徳に反するし、人権侵害もはなはだしいと考える。 (メールマガジン38号 −2002年8月28日発行−より抜粋)

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