03 / 吉田猫次郎
事業再生に役立つ「意識」
このページの目次
- 3.1 実は、「会社はそう簡単に潰れない」
- 3.2 最も多いのは「自滅」型?
- 3.3 まずは落ち着いて。平常心を取り戻そう
- 3.4 貧すれば鈍する 鈍すれば窮す 窮すれば通ず
- 3.5 ピンチはチャンス 大ピンチは大チャンス
- 3.6 生き抜くために「強さ」は必要か?
- 3.7 自分を客観視する
- 3.8 借金は悪いことではない
- 3.9 「返せない」と「返さない」は違う
- 3.10 真面目でいい人ほど経営が苦しくなりやすい
- 3.11 成功者も簡単に倒産する
- 3.12 V 字回復、U 字回復、L 字回復、サバイバル、ゾンビ企業
- 3.13 サッサと潰してやり直すか?それとも維持か?
- 3.14 最悪の事態って何だ?破産?差押?
- 3.15 人と人とのつながりが、不可能を可能にする
- 3.16 自殺と、家族と、自責の念
- 3.17 平時と有事
- 3.18 解決のヒントは、そこらじゅうに転がっている
- 3.19 道筋があっても倒産する人、道が閉ざされても生き残る人
- 3.20 イバラの道を選択した人の「予後」
3.1 実は、「会社はそう簡単に潰れない」
意外に思われるかもしれませんが、中小企業は、そう簡単には潰れません。
(雑草が踏まれても踏まれても育つように)
具体的な根拠もあります。
例えば、倒産危機時に起こる事態として、軽い順に、
資金ショート
支払遅延
一括請求
代位弁済
法的手続
差押・競売
債権譲渡
手形不渡
などがありますが、この中のどれ一つとっても、法律上の倒産ではありません。これらは倒産状態には近いですが、専門書のどれを読んでも「差押は倒産である」「不渡りは倒産である」とは書かれていません。せいぜい、新聞や業界誌で「事実上の倒産である」と書かれる程度です。社長さんが事業継続を断念して、倒産の「手続き」に入らない限り、それは倒産ではないのです。(夜逃げや放置は別ですが)
「状態」と「手続き」は区別しましょう。たとえ倒産に近い状態に陥っても、まだ残された選択肢はあります。熟考の末に倒産手続きを決意するのなら大いに結構ですが、まだ熟考にしないうちに、思考停止してなんとなく倒産手続きに流れてしまうのは、あまりにももったいない。
3.2 最も多いのは「自滅」型?
これは私の仮説です。
我が国の中小企業の倒産で最も多いのは、
「外敵に潰される」のではなく、内部の問題が
重なって、
「自滅」するように倒産に至るケースではないかと考えています。
例えば、
「社長が高齢化 → 従業員も高齢化 → 設備も老朽化 → 革新的な事ができない → 競争
に勝てない → 衰退」
「衰退 → 資金繰り悪化 → 悪循環 → 心が折れる → 思考停止・戦意喪失 → 倒産」
など。
いずれも内的要因によるところが大きいですね。
「自己破産」という言葉も象徴的です。
己が自ら破産を選ぶから、自己破産というのです。
(これに対して、債権者破産とか第三者破産という制度も存在します)
日本における破産手続きの約 99%以上は「自己破産」です。「第三者破産」は全体の 1%未満で、これは世界的に見ても稀なケースだそうです。(ソースは東京商工リサーチ)
逆に言えば、暴論めいてしまいますが、自己破産を自ら選択しなければ、破産者は激減するでしょう。もちろん、自己破産を選択せずゾンビ企業のようにだらだらと存続させる事がいいとは言いません。ただ、自己破産を選択せず、イバラの道を選んだ会社が、100%ゾンビ企業になるとも思えないのです。やり方次第、経営者の気持ち次第ですが、ゾンビ企業寸前の会社を何割か救い上げる事は十分可能ではないかと思うのです。
その可能性を(つまり自己破産を慌てて選択せず、かつ、ゾンビ企業からも這い上がれる可能性を)、とことん模索してから結論を出してもいいではありませんか。
思考停止に陥って自滅というのが一番もったいない。
3.3 まずは落ち着いて。平常心を取り戻そう
中小企業経営者の日々の現実は過酷です。仕入支払。外注費。従業員給与。税金。社会保険料。銀行返済。そのための資金のやりくり。個人保証(連帯保証)という名の無限責任。信用維持。営業。販売。生産管理。商品管理。現場管理。労務。経理。などなど。(映画『男はつらいよ』のタコ社長みたいですね)
とりわけ、支払、返済、資金調達は、多くの場合、社長の仕事です。赤字や債務超過や資金難に追い込まれた場合、これらが困難になりますから、自ずと眠りが浅くなり、休日も資金繰りが頭から離れず、家族との会話もあまり弾まず、酒やタバコの量が増え、心と身体の健康が次第に蝕まれていきます。
ここでまた、「自滅」のおそれが出てきます。
自滅だけは、何としても食い止めましょう。
もったいなさすぎます。
健康面で自滅しないための心がけは、
・深呼吸する
・太陽に当たる
・よく歩く
・食べる
・会話する
・寝る
精神的に一杯一杯になったら、まず深呼吸して、外へ出て、太陽に当たって、よく歩いて(できれば走って)、うまいものを食べて、家族でも友達でもいいからよく会話してみてください。肉体的疲労感に包まれてぐっすり寝られれば理想です。
ちなみに私の場合、運動は水泳をよくやっています。水泳はいいですよ。お金があまりかからないし、泳いている間は水中にいるので携帯電話が鳴らないし、全身運動になるし。
3.4 貧すれば鈍する 鈍すれば窮す 窮すれば通ず
「貧すれば鈍する」は、よく知られていますね。人間、貧しくなると思考や行動が鈍って
くるのは確かです。この言葉も、そういう使い方をされています。
ですが、ピンチを乗り越えたいなら、そこで終わりにしてはいけません。
こんな言葉もあります。
「窮すれば通ず」
これは中国の古典『易経』に由来します。窮地に追いやられれば追いやられるほど、必要に迫られて必死に策を考え、道が開ける。そんな解釈で概ね間違っていないと思います。
3.5 ピンチはチャンス 大ピンチは大チャンス
ピンチはチャンスと、昔からよく自己啓発書などに書かれています。それならば、大ピンチは大チャンス、特大ピンチは特大チャンスなのでは!?と、20 年ほど前のある日、相談者を励ます会話の中でふと思い浮かびました。
これも根拠になりそうな事例があります。
例えばヤミ金。ヤミ金は怖い存在です。ヤミ金に手を出したら、きっと人生最大級のピンチに陥るでしょう。でも一方、ヤミ金は「はかない存在」でもあります。彼らは超高金利や無免許営業など、刑事罰が科せられる犯罪行為をしていますから、表に顔を出せません。超高金利の契約内容も表に出せません。取り立ての際も、捕まらないように巧妙にやるしかありません。また、裁判所や弁護士が介入して法律の土俵で争えば、ほぼ確実に、超高金利は無効になるし、貸した元金も減額あるいはゼロになります。そう、借り手側がその気になりさえすれば、この大ピンチは、借金激減の大チャンスになりうるのです。
他にもあります。例えば中小企業の多くがお世話になっている信用保証協会。信用保証協会つきの借入金が、何らかの事情で長期延滞してしまうと、銀行の手を離れて代位弁済になります。多くの経営者や専門家は、代位弁済を「大ピンチ」「破綻状態」ととらえていますが、それはちょっと違います。担保や連帯保証人の有無にもよるので一概には言えませんが、状況次第では、代位弁済になった事が、会社再建に向けての大チャンスになる場合もありうるのです。実例は数え切れないほどあります。(但し、しつこいようですが一概には言えません。独断で進めないようにしましょう)
自宅の競売という大ピンチでさえも、大チャンスになる場合があります。競売 → 家を失う(担保物件を失う) → 残債が残るが、無担保債権と化す → 金融機関が回収を諦める → サービサーへ二束三文で債権譲渡する → 借金大幅減額のチャン
ス、という流れです。このような事態を起死回生のチャンスととらえ、自宅を借家に引っ越してから再起していった社長さんも数多く見てきました。
3.6 生き抜くために「強さ」は必要か?
事業再生においては、屈強な強さのようなものは、まったく必要ありません。
それよりも、柔軟さや、したたかさ、折れても立ち直る力のほうが必要です。
英語でいうと、レジリエンス(resilience)でしょうか。
債権者交渉のような場面でも、力づくで戦おうとしないこと。
自然体、あるいは謙虚な姿勢のほうが、むしろ良い結果をもたらします。
3.7 自分を客観視する
「僕はいま、自殺まで思い詰めています。なぜなら、僕には 120 万円もの借金があるから
です。
」
という手紙を、ある会社員の方からもらったことがあります。彼にとっては、120 万円の借金というのは、生きるか死ぬかの問題なのですね。
私は彼に対し、こんな返信をしました。
「120 万円の借金ですか。少ないですね。いくらでも解決方法が思い浮かびます。どうか
安心してください」
「自分の置かれている状況を客観視してください。うちに相談に来る方の平均は負債総額
1 億円ですよ。まずは落ち着いて落ち着いて」
その後、彼はいくらか平常心を取り戻し、私や私以外の専門家への相談を進めていき、120 万円の借金問題は解決に向かっていきました。死ななくて良かった。
「メタ認知」という言葉があります。アメリカの心理学者ジョン・H・フラベルが 1970 年代に提唱した概念です。認知についての認知(thinking about thinking)、いわば「もう一人の自分が高いところから自分を見つめている状態」を意味します。(wikipedia より)
要は、自分を客観視する事ですね。自分を客観視する力があれば、たとえ 1 億円くらい借金を抱えても、「まあ、中小企業ならフツーかな」と冷静に対処できるようになります。
3.8 借金は悪いことではない
お金を借りることは悪いことではありません。
これは義務教育でも教えるべきです。
借金のことを、会計用語で「借入金」といいますが、どんな優良企業でも借入金はあります。これを書いている現在、軽く調べてみたら、トヨタ自動車の有利子負債は 43 兆円、ソフトバンクグループの有利子負債は 24 兆円、東京電力ホールディングスは 6 兆円でした。借入金は欠くことのできない資金調達手段ですから、このくらい当然ですね。要は、バランスがとれていればいいのです。
たまに、借金に対してものすごい嫌悪感を抱いている方がいます。クルマを買うのも現金。教育資金も現金。ローンや奨学金なんてもってのほか。借金するくらいなら、子供を進学させません、と・・・。こういう価値観は改めるべきでしょう。いいじゃないですか、ローンや奨学金で学校へ行ったって。何が悪いんですか?
ただ、お金の借り方や、借りる目的によっては、良くないものがあることは確かです。例えば、浪費のための返すアテのない借金などは当然ダメですね。
借りる先も、銀行系カードローンや大手消費者金融くらいなら、さほど目くじら立てて否定する事はないと私は思いますが、違法金利のところはいろいろ大変になるのでやめましょう。(経験者は語る)
3.9 「返せない」と「返さない」は違う
次に借金返済についてですが、
「返さない」のは悪いことです。
が、「返せない」のは、必ずしも悪いこととは言えません。
これは良い・悪いという判断基準で測れないことも多々あります。
特に会社経営や投資活動においては。
資本主義経済には競争がつきものです。
勝ちもあれば負けもある。
もし負ければ、返すものも返せなくなります。
これが現実です。
これを承知の上で、人は起業したり投資したりしています。
会社の 10 年生存率は、諸説ありますが、あまり高くありません。
(50~70%?)
倒産件数や自己破産件数は、年間ウン万単位です。
これは「返せなくなった」数とおおむね同義とみていいでしょう。
そのくらい、返せない事態というのは身近なものなのです。
「返せなくなった人」に対して、刑事罰のようなものは原則としてありません。それどころか、再起のチャンスすら与えられています。自己破産という手続きがそうですね。あれはいわば救済制度です。やむをえない事情で借金が「返せなくなった」人や会社へ、その借金、返さなくていいですよと裁判所が認めてくれる、まことにありがたい制度です。この制度のおかげで、人は経済活動をまたやり直す事ができる。再チャレンジする事ができる。
3.10 真面目でいい人ほど経営が苦しくなりやすい
相談者 A さん: 奥さんの実家に乞われ、4000 万円連帯保証した。相談者 B さん: 金属加工業。下請け。品質は最高だが、ずっと赤字。相談者 C さん: 学習塾。評判は良いが、価格が良心的過ぎてずっと赤字。相談者 D さん: 建設業。預金残高がギリギリなのに従業員にボーナス支給。
共通点は、自分のためにも他人のためにも無理してしまうタイプ、でしょうか。なんだか憎めないですね。
そう、私のところに相談に来られる方の実に多くがこのタイプで、決して、だらしないだの無計画だのと断じきれないんです。地域貢献度の高い方もかなりおられます。
3.11 成功者も簡単に倒産する
たまに勝ち誇ったように「そんなことしてるからダメなんだよ!お宅の会社は!」と窮境企業を批判する成功者がいますが、実は、その成功者も、危ない橋を渡っている事がよくあります。SNS でもそういう展開をよく見かけます。事業規模だけでは、経営状態は測れません。
売上が何十億円あっても、慢性赤字の会社もある。
資産が何十億円あっても、負債がそれ以上にある会社もある。
不動産をいくつ持っていても、キャッシュが枯渇している会社もある。
むしろ、規模の大きい会社のほうが、いざというときに縮小して生き残るのが難しく、あっという間に倒れてしまう場合があります。
中小零細の皆さん、苦しいのはあなただけではない。上を向いて歩きましょう。
3.12 V 字回復、U 字回復、L 字回復、サバイバル、ゾンビ企業
事業再生というと、かっこいい V 字回復をイメージする方もいるかもしれませんが、現場はそう甘くありません。なにしろ資金がない。信用も失墜している。人員もギリギリ。ビジネスモデルも陳腐化していることが多い。要するに、経営資源が枯渇しきっているから事業再生しなければならない局面に立たされているわけです。これを V 字回復させようとしたら、よほど多額の資金をどこかから調達するか、よほど強力なバックがつくか、よほど有能な人材がいるか、よほどビジネスモデルが改善されているか、最低でもそのうち 3つくらいは揃っていないと実現できないでしょう。
うちの相談者の場合、倒産寸前状態から V 字回復に至ったケースは、数十人に 1 人くらいです。(たまにですが、とんでもなく V 字回復して手の届かない世界へ行ってしまう社長さんもいます)
多くは「V 字」ではなく、もっとゆるやかに「U 字」のような回復をしていきます。あるいは「L 字」のような、いちど大幅に事業規模を縮小した後に、均衡が取れて平和を取り戻していくケースもよくあります。
そう、事業再生の多くは、U 字型か L 字型の回復が実態なのです。
さらには、U 字も L 字回復もできず、生き残るので精一杯の「サバイバル」のような様相の会社もあります。悪く言えばゾンビ企業です。この場合、ずっとそのままでいいとは思いませんが、長期間、耐えがたきを耐え、食うや食わずの生活をしている間にも、次のチャンスを窺い、忘れた頃にびっくりするような V 字回復を遂げたような事例もいくつかありましたので、つくづくこの世界は面白いと思います。貧乏会社をバカにはできません。
3.13 サッサと潰してやり直すか?それとも維持か?
これは専門家によって見解が分かれるところです。優秀な再生専門家の多くは、「サッサと見切りをつけて(返せない借金は破産などによって切り捨てて)、もし黒字化の見通しがあるなら、第二会社方式などの手段で再起すべきだ」と言います。私もその考えには同意します。
ただ、その結論を導き出すためには、30 分や 1 時間のスポット相談だけで断定してはいけないと思います。(優秀な専門家は総じて頭がいいし時給も高いので、短時間で結論を出しがちですが)
こんな事例があります。
「決算書と相談シートだけ見たら、現預金 50 万円、その他の資産はせいぜい 950 万円、あわせて 1000 万円程度しかない。負債は 1 億円ある。実質、9000 万円の債務超過だ。売上は 5000 万円で減収、営業利益は赤字、純利益も 3 年連続赤字だ。社長はマイホームを担保に取られているそうだが、これはもう、破産しかないだろう。企業価値・事業価値もゼロに等しいから M&A も第二会社方式も考えられない。もはや救いようがない。社長さんには自己破産、自宅処分、転職を選んでもらったほうが再起が早そうだ・・・」
しかし、相談内容をじっくり聴き込んで、現場にも出向いてみると、数字にあらわれない良いところがたくさんありました。
「おや?このホコリだらけの在庫は今なら高く売れるぞ」「おや?この借金 1 億のうち、6000 万円は既に無利息の月々1 万円で和解済みじゃないか」「おや?あとの 4000 万円は先代のときにサービサーに債権譲渡されていて、積み重なった督促状を開けてみたら減額和解の提案が書かれているじゃないか」「おや?事業はたしかに減収減益だが、新規事業を仕込んでいて、特許も取得しているじゃないか」
「それに、決算書の別表 7-1 を見ると、繰越欠損金が何千万円も残っているじゃない
か」
「これは慌てて自己破産したり第二会社方式を選んだりしないほうがいいぞ」
こういう事が実際にあるので、私は相談者の皆さんに対し、複数の専門家に相談することをお勧めしています。「まだ慌てるような時間じゃない」
3.14 最悪の事態って何だ?破産?差押?
倒産危機に瀕すると、不安や恐怖に圧し潰されそうになります。ですが、冷静に考えてみてください。そもそも何が怖いのか?相手はオバケや宇宙人じゃないんですよ。見える相手ですから、対策も講じやすいはずです。
最悪の事態を想像してみましょう。犯罪行為でもしない/されない限り、倒産危機は「民事」の範囲にとどまります。民事での最悪の事態とは、せいぜい、「破産」「差押」「厳しい取り立て」あたりではないでしょうか。(それに付随して起こる信用失墜はここでは置いときます。対策も別途あります)
私の場合、破産だけは経験したことがありませんが、それ以外は全て経験しました。それでもこうして元気に生きています。
破産もまた、一種の救済制度ですから、むしろ救われる要素のほうが大きい。
そう考えれば、最悪の事態だってそんなに怖くないじゃないですか。
ちなみに、我が国は法治国家ですので、差押も法律に基づいています。借金の取り立ても法律で規制されています。法律はピラミッド構造をしていて、その頂点は日本国憲法です。そして日本国憲法の第 25 条で、「健康で文化的な最低限度の生活を営む権利」(生存権)」を保障されています。破産法も民事執行法も国税徴収法も、憲法と矛盾してはなりませんから、たとえ破産しても、差押されても、健康で文化的な最低限の生活はできるのです。身ぐるみ剝がされることもないし、お子さんを学校に進学させることもできます。
3.15 人と人とのつながりが、不可能を可能にする
とびきり難易度の高い相談を受けることが、時々あります。多額の借金だけならまだいいほうで、これに複数の連帯保証人や、土地建物の共有名義、泥沼の相続関係、親の介護、特許権、FC 契約、許認可、複数の子会社、従業員の派閥争いなどが絡んだ場合です。
こんな場合、一人の専門家だけではまず太刀打ちできませんが、複数の専門家がチームのようなものを組めば、たちまち解決の道筋が開けてくる場合があります。
かくいう私も、そんなケースに備えて、過去 20 数年間、全国各地の専門家との出会いやつながりを大切にしてきました。「この北海道の案件は、債権者交渉や取引先との契約関係や相続関係に弁護士が欠かせない。新会社の登記や自宅の生前贈与には司法書士が欠かせない。税金の相談は税理士。不動産の査定は信頼できる不動産業者。従業員の労務は社労士。経営改善計画の策定支援は私。よし、このメンバーなら最強だ。きっと不可能を可能にできるぞ」 と。
あるいはスポンサー(資金援助者)や、M&A の際の買い手候補探し。これらもまた、人と人とのつながりによるところが大きいですね。
3.16 自殺と、家族と、自責の念
かつて私は、借金自殺防止への取り組みに大変力を入れていました。特に 2003 年から2011 年頃までは、自殺防止活動に力を入れている NPO 法人の立ち上げに協力したり、自殺対策基本法(2006 年施行)の法律づくりの際に有識者から意見を求められたり、WHO の国際シンポジウムでトークしたり、各地の公共機関で講演したり、民間の自死遺族ケア団体の勉強会で無料相談を受けたり、いろいろやっていました。(年間自殺者数が 2 万人台に減少してからはあまりお呼びがかからなくなり、近年ではすっかりご無沙汰していますが・・・)
私が詳しいのは、借金苦や経営難を苦にした自殺の防止です。それだけです。いじめや病気などを苦にした自殺はまったく詳しくありませんのでここでは触れません。
さて、借金苦・倒産危機で自殺まで思い詰めている相談者を、これまで沢山見てきました。中には首を吊ったけど死にきれなかった経営者や、車で練炭を炊いたけど目が覚めたら病院のベッドにいたという多重債務者など、すでに自殺未遂を経験している相談者もいました。最近では、真夜中に海に飛び込んで九死に一生を得た方もいました。(今は皆さん元気です。)
では、なぜそこまで思い詰めてしまうのでしょうか?
私自身が過去にそういう精神状態まで思い詰めた時は、「本当は死にたくないけど、生命保険で借金を返すしか手はない」と思い込んでいたからでした。いわば無知によるものでしょうか。いやそれだけではありませんでしたが。
別のある方は、解決のための方法論は頭の中で整理できていましたが、家族関係がぐちゃぐちゃになっていました。倒産危機によって経済的に窮したのがきっかけで、ストレスが溜まり、現実逃避のために酒やパチンコが増え、眠りも浅く、奥さんには愛想を尽かされ、お子さんも口をきいてくれなくなり、先代のお父さんやお兄さんとは経営方針をめぐって毎日ケンカが絶えず、おまえのせいでこうなったと詰められ・・・。耐えきれなくなり、自殺未遂に至ったという感じでした。
昔はこうしたケースに加え、自責の念にかられて自殺まで思い詰める方もよくいました。借金を返済できず、連帯保証人や取引先にも迷惑かけてしまった自分が許せないという動機です。近年では法改正のおかげで経営と関係のない連帯保証人を取られることが激減しましたし、情報源や相談先も増えてきたので、こうしたケースは随分減ってきたと感じます。
つまり、自責の念による借金自殺は減少しているようだが、身内関係の悪化で精神的に追い込まれて自殺まで思い詰めるケースは依然として少なくない、という印象です。
意外なところでは、債権者に追い込まれて自殺まで思い詰める方は、昔から少ないです。
外部要因より内部要因というわけです。
ここをもっと掘り下げれば、より自殺防止に貢献できそうな気がします。
3.17 平時と有事
平時と有事では、考え方を少し変えましょう。例えば、「支払いの優先順位」。平時なら、借金返済と仕入支払と従業員給与と自分の役員報酬と税金とに優先順位などつける必要がなく、どれもキチンと払っていたと思いますが、有事になると、究極の選択を強いられます。「どれを犠牲にするか?」
この場合、支払いの優先順位はこのようにする必要があります。
1 番 従業員の給与と、自分の給与(最低限の生活)
2 番 業者への支払い(商売を維持するために)
3 番 税金(国民の義務だし、差押が早くて正確で怖い)
4 番 その他、事業継続に欠かせないもの
5 番 借入金返済
1,2,3,4 を優先した結果、5 の借入金返済ができないのであれば、その現実を受け入れ、しかるべき対策を講じるしかありません。(リスケ、返済停止、担保処分、私的整理、法的整理など)
大丈夫です。それでも事業継続はできます。
3.18 解決のヒントは、そこらじゅうに転がっている
経営危機や借金苦で悩んでいる時、それに関連する専門書を読んだり専門家に相談するのももちろん良いですが、それ以外にも、問題解決のためのヒントはそこらじゅうに転がっていることに気付いてください。中には、夕陽を眺めているだけで人生逆転の特大ヒントを掴んだ人さえいます。
私が過去に苦しかった頃は、借金や法律の本を広く読み漁り、それはそれで大変役に立ちましたが、ほかにも、昔読んだ小説や漫画のエピソードを思い出して、そこからヒントを得たこともありました。
例えば、漫画『巨人の星』には、こんなくだりがあります。
主人公の星飛雄馬は、高校時代までは正確無比な剛速球ピッチャーとして鳴らしていた。しかし読売巨人軍に入団してからは、体格が小さいがゆえに球質が軽いことに気付かれ、
剛速球に目が慣れた打者からどんどん撃たれるようになり、一時は二軍落ちしてしまった。スランプに陥った星飛雄馬は、一時は挫折しかけたが、ある日、寺へ座禅を組みに行った時、星飛雄馬だけがなぜか何度も肩を叩かれる。そのときお坊さんにこう言われた。「打たれまい、打たれまいと思うから、全身がこわばって、ますます打たれるのじゃ」そこで飛雄馬はハッと目覚める。「打たれてもいい、いやむしろ打ってくれという気持ちになったら、力が抜けて打たれなくなった」「おい待てよ、この考え方は、新魔球の開発に使えるのではないか?」こうして、星飛雄馬の持ち前の球質の軽さと針の穴を通すコントロールが武器になり、バッターの構えるバットに自らボールを当ててアウトを取る「大リーグボール 1 号」が誕生した。(以上、私の記憶に基づく雑なあらすじです)
私は、
『巨人の星』からも借金問題解決のヒントをもらいました。
「差押えされたくない、差押されたくないと思うから全身がこわばるのじゃ」
「差押されてもいい。いやむしろ、どうぞ差押してくださいという境地になれば、きっと
道は開ける」と。
このように、ヒントはそこらじゅうに転がっています。
3.19 道筋があっても倒産する人、道が閉ざされても生き残る人
経営の 3 資源はヒト・モノ・カネと言われていますが、この 3 つが損なわれていなければ、事業再生は比較的簡単と言えるでしょう。が、この3つひとつでも欠けていると(あるいは欠けそうだと)、難易度は上がります。2つ欠けるとかなり難しくなります。3 つ欠けると絶望的に近くなります。
ここで、興味深い現象があります。
長く相談を受けていると、まだ軽症なのに(ヒト・モノ・カネの全てが必要十分に揃っており、ちょっと目の前の資金繰りに困っただけのような状態に過ぎないのに)、社長さんの心が折れてしまい、自滅するかのように廃業してしまうようなケースがあるのです。
逆に、この私でさえ「こりゃ無理だ。プラス要因が無さすぎる。いったん会社を畳んで、ゼロからやり直したほうがいい」と思っていた事案が、私の予想に反し、ヒトもモノもカネも何もないのに、びっくりするような方法で大逆転したというケースもありました。
この差は何なのでしょうか?
まとめると、次のようになります。
A.経営資源(ヒトモノカネ)が揃っている だから(当然)再生できたB.経営資源(ヒトモノカネ)が底をついた だから(当然)再生できなかったC.経営資源(ヒトモノカネ)が揃っている なのに(自滅するかのように)倒産したD.経営資源(ヒトモノカネ)が底をついた なのに(奇跡的に)大逆転勝利したこの 4 パターンのどれもが実在するのです。
A と B は、一般的と言えますね。普通の感性の経営者なら、このどちらかでしょう。
問題は C と D です。私個人的には、ここをもっと深く分析したい気持ちです。C を少しでも減らすための方法と、D の再現性についてを。
C は本当に残念です。社長さんの生まれ持った性格に起因するのでしょうか?それとも失敗に対する過度な恐怖心や失敗経験の無さによるものでしょうか? 部下や顧問税理士や外部専門家が口をそろえて「まだやれますよ」「こんなのかすり傷です」と励ましても、社長自ら倒産手続きを選んでしまうのです。
D は最も興味深い。私は過去 20 数年間のうちに、奇跡に近いようなレアケースをいくつも見てきました。例えば、メインバンクからも顧問税理士からも再生支援協議会からも「廃業したほうがいい」「もはや自力再建は無理」「債務超過がひどすぎる」「黒字化も難しい」「業界全体が斜陽産業」などと言われても、それに従わず、ただひたすら本業に邁進して、資金繰りや債権者対策は二の次にして(つまり真っ先に目を向ける先はお客様。資金繰りは二の次)、愚直に事業を継続した結果、業績が爆発的に伸び、返せない借金も返せるようになった。しまいには私的整理も法的整理もせずに、重度の債務超過を解消してしまった。そんなような事例です。あまりにも印象深いので、その事例をすべて憶えています。業種としては、ガソリンスタンド、酒蔵、土木、パン屋、居酒屋、自動車修理、美容業などがありました。社長のタイプもさまざまで、中卒叩き上げタイプ、職人気質、早稲田慶応卒、体育会系、怪しげな自己啓発セミナー系、30 代、50 代、70 代など、実にバラエティに富んでいました。性格も個性的で、型にはまらないタイプが多かったと感じています。
いやー、事業再生は面白い。人間は面白い。
3.20 イバラの道を選択した人の「予後」
これも事業再生コンサルタント一筋 20 ウン年を経験した者でしか観察することができない貴重な財産です。相談者の 10 年後、20 年後の「予後」を、私は数十件、いや 100 件以上は把握しています。ある方は毎年、年賀状と暑中見舞いを、またある方は私と友達のような関係になり飲みに行ったりしています。またある方は倒産回避・事業再生のステージから卒業して正常化し、正常な会社として、資本性ローンやものづくり補助金の事業計画策定支援などを依頼してくださっています。ありがたやありがたや。
さて、その「予後」ですが、これも実に興味深い。
| (パターン) | (予後) |
|---|---|
| A.(当然のように)再生できた | 順調なところが多い |
| B.(当然のように)廃業した | 意外と幸せそうにしている |
| C.(もったいないことに)自滅・廃業した | 予後が悪い様子(メンタル面で) |
| D.(奇跡的に)驚くべき展開で再生した | 現在も驚くべき展開が続いている |
例外もありますが、ざっとこんな感じです。A は既定路線。B は一見すると不幸そうですが、現実を素直に受け入れた結果だからでしょうか、その後も自分を客観視しながら暮らしていて、無理せず、ストレスを溜めず、つつましやかに平和を保っている印象です。C は一番もったいない。倒産を自ら選択した後、それを後悔し、少し病んでしまっている印象の方が少なくありません(全部ではありませんが)D は最もドラマチックで笑わせてくれます。もしかしたら私もこのタイプかもしれません。
ちゃんとデータを分析したわけではありませんが、これは、当たらずとも遠からずだと思います。いや、確信めいたものを感じます。
いつか、C と D をもっと掘り下げて分析してみたいと思っています。